金がなかった。それが全ての原因だった。




   補章 クラウドの卑劣な日常



 守銭奴として名高いクラウドだが、事情を知らない他人には不思議なことに、借金魔としても有名である。本人は『魔術師は金がかかるんだ』と言ってはいるが、実はティーナのいた施設に陰から援助をしていたせいだ。

 その彼女も今年学園の僧侶科に入学し、またパーティー検定に合格したこともあって当座の金の必要はなくなった。ラグナロック学園の授業料その他は、額が法外であるかわりに、出世払いというシステムを取っている。早く言えば冒険者となったときに報酬から差し引かれるわけだが。

 しかし計画性のないクラウドは、借金してまでティーナに金を送り続けていたのである。そしてそれは未だに返済が終わっていないのだった。

 クラウドは学生食堂の内部を見回した。もめごとのタネを探しているのである。金のないときに飯を食うための、彼の常套手段だ。

 一人の見知らぬ男に目を付け、クラウドはニヤリとした。もし彼が居たのが雷鳴とどろく魔城の玉座の上か何かだったなら、人は間違いなく『悪の魔術師が今しも世界征服の新たな陰謀を思いついた』と見てとるだろう。そんな笑いだった。

「くっくっくっ‥‥」

 クラウドは忍び笑いを漏らしながら、男に近づいた。エルフである彼は、黙って立っていれば美形なのだが、こういう言動をしていると悪人にしか見えない。

 その男は学食の料理を口に運びつつ、周りの者に何やらベラベラ喋っていた。

「駄目だね、火の通しかたがまるでなっちゃいない。これじゃせっかくの材料が台無しだ」

 その若い学生は偉そうに語った。食通でも気取っているらしい。

「オレならもっとマシなものが作れるぜ」

「──ほう。その黄色いクチバシでも味がわかるのか、青二才」

 背後から突然、冷水を浴びせかけるような口調で言う。クラウドの特技の一つである。

「何様か知らんが、食事中にペチャクチャさえずるな。マナーも身に付けていないくせに料理について語るなど片腹痛いわ」

「なにいっ!?」

 学生は大きくテーブルを揺らして立ち上がった。まあそうだろう。いきなり通りすがりの他人からこんなことを言われれば、誰だって怒る。

「キサマ、オレを誰だと思っている!」

「食事中にペチャクチャさえずるマナー知らずでクチバシの黄色い青二才だと思っているが」

「‥‥ぐっ‥‥いいか、オレは剣士科3年生、そしてラグナロック学園料理研究会会長のシーロン・ウリク。──人呼んで、ミスター味野郎だっ!!」

 クラウドは、学園にいろいろ妙なサークルが存在することは知っていたが、料理研究会とは初耳だった。

「それで?」

 冷たく言い放つ。

「そこまで言うなら、オレと料理で勝負しろ! キサマ、名は何と言う!」

「占術師科4年生のメリアスだ」 クラウドはすらすらと偽名を述べた。

「よしっ、メリアス! 舞台はオレが整えておいてやる! 明日午前十時に学園中央公園まで来い、わかったな!」

「‥‥ああ」

 クラウドは髪をかき上げ、静かに言った。

「敗北を恐れて逃げるなよ、青二才」

「こっちのセリフだっ。いいか、十時に中央公園だぞ! 忘れるな!」

 シーロンは勢いよくまくし立てると、仲間を連れて引き上げて行った。

「‥‥やれやれ」

 つぶやくクラウド。彼はシーロンの席に腰を下ろすと、残された料理を平らげはじめた。

「やはり、タダ飯を食うにはこの手に限るな」




*                   *


 二日後。学園構内を歩いていたクラウドに後ろから怒声が飛んだ。

「キサマっ! なぜ昨日は来なかった!?」

 振り返ると、まるで頭から蒸気を発していそうなシーロンがいる。

 クラウドは頭に手を当ててしばらく考え込み、ポンと手を打った。

 本気で忘れていたのである。

「あー。お前か」

「ふざけるなっ。キサマのおかげでオレは大恥をかいたんだ! しかもメリアスなどという学生はどこにも登録されちゃいないし、オレはずっと探していたんだぞ!」

「ほう。それはご苦労」

 偉そうに言うクラウド。

「昨日は何か、いたしかたない事情があったということにしてやる。明日もう一度準備をしておくから、今度こそ来い! 場所と時間は前と同じく、午前十時に中央公園!」

 言うだけ言うとシーロンは立ち去ろうとした。が、少し行ったところで慌てて戻ってくる。

「──そうだ、キサマ、本当は何者だ!?」

「魔術師科3年生の‥‥レイだ」

「レイだなっ、覚えておくぞ!」

 走って行くシーロンを見送り、クラウドは言った。

「‥‥少なくとも一つは本当だからな。まあいいだろう」

 ちっとも良くない。




*                   *


「キサマ‥‥人をバカにするのもほどほどにしておけよ‥‥」

 そのまた翌々日の夕方、クラウドが樹の枝の上で昼寝をしていると、下から声がかかった。

「一度ならず二度までも! もうキサマの名は調べが付いたからな! 次は逃がさんぞ、 “トゥインクル・スターズ”のクラウド!」

 クラウドは眉をしかめ、落下制御の呪文を操りながら地上に降りた。

「‥‥フン‥‥俺をここまで追い詰めたのはお前が初めてだ。褒めてやろう」

「キサマはいつもあんなことをしてるのかっ!?」

「そう責めるな。昨日は忘れていたんじゃない。ただ無視しただけだ」

 さらっとそう言い、クラウドは去ろうとした。

「待てっ! 明日だ! 明日こそ決着を付けるっ、絶対に来いよ!!」

「──何度やっても同じことだ」

「まだ一度も勝負していないだろうが!」

「やれやれ。弱い犬ほど吠えたがる」

「そのオレから逃げ続けてるお前は何だ! ‥‥よし、わかった。いいか、オレはこの勝負に金貨5枚を賭けてやる。それなら来るか?」

   クラウドの足が止まった。金貨5枚と言えばそこそこ、いや、かなりの額である。

 彼はゆっくりと振り向いた。

「‥‥ふん‥‥俺を本気にさせたようだな‥‥」

「キサマの本気の源は金か‥‥? まあいい。勝負の審判はオレが教師にお願いしておいた。公平を期すため、貴様にも一人用意してもらおう。そして、明日までに三品の料理を考えておけ。オレをうならせるような料理をな」

「ああ、わかった。また十時に中央公園だな。──逃げるなよ」

「こっちのセリフだっ!!」




*                   *


 クラウドは考えていた。大見得を切ったものの、彼には冒険者として最低限の野外料理しかできない。しかし、金貨5枚の誘惑はあまりに大きかった。

「誰かに教わるか‥‥」

 パーティーのメンバーの顔が思い浮かんだ。

「まず、アスカは論外だな。ユウキとアーリィは料理なんぞしそうにないし、ルージャは‥‥」

 想像の中のルージャが飄々とした笑みを浮かべ、Vサインをした。クラウドは首を振った。

「‥‥底が知れん奴だから料理ぐらいはできそうだが、金がからんでるとバレたら校則がどうのこうのとうるさいだろうな。となると‥‥」

 クラウドはため息をついた。

「どうも、あいつと面と向かって話していると、調子が狂うんだが‥‥しょうがない」

 夜になり、決心したクラウドは女子寮のティーナのドアをノックした。返事はない。

「もう寝ているのか? 困ったな」

「あら、クラウドさん」

 後ろから急に声がした。ハッとし、慌ててそちらを向くクラウド。

「すいません、お風呂に行っていたもので。私に何か御用ですか?」

 ほんのりと上気した肌を水色のパジャマに包み、ハーフエルフの少女は軽く首をかしげた。

「あ‥‥いや‥‥」

 人を疑うことを知らぬような笑顔を向けられ、ついつい口ごもってしまう。

「まあ、中へどうぞ。お茶でも淹れますから」

 ドアの紋章に手を当てると、静かにドアが開く。本人にだけ反応する特殊な魔法錠である。

 扉の隙間から女の子らしい部屋が覗いた。クラウドは思わず言う。

「い、いや、その必要はないっ」

「でも、本当は夜間の女子寮への出入りは禁止されているんでしょう。こんなところを誰かに見られたら、クラウドさんが‥‥」

 クラウドはティーナの肩を掴み、強く言った。

「いいか、絶対に男を部屋になんか入れるんじゃない! 特に夜は!」

「は‥‥はい‥‥?」

 戸惑いながらもうなずくティーナ。

「たとえパーティーの仲間であってもだ! わかったな!」

 そう言い残し、クラウドはきびすを返した。その背中を見てティーナは不思議そうにつぶやいた。

「何か用があったんじゃないんでしょうか‥‥変なクラウドさん」




*                   *


「まったく、あの娘は‥‥」

 用件を切り出しそびれたクラウドである。

「あいつは妹に似て可愛いからな‥‥妙な男にだまされでもしたら、エミナとセルクに申し訳が立たん」

 友人と妹に代わって彼女を守ると、クラウドは誓ったのだ。本人には隠しているが、大切なただ一人の姪なのである。

「しかし困ったな」

 クラウドは腕を組む。

「‥‥こうなったら、得意の策謀で勝負するしかないようだな‥‥ふふふ、そもそもそれが俺の本来のやり方だ。正攻法で堂々と勝負しようとしたのが間違いだった」

 ──間違っているのは彼の根性のほうである。

「まずは審判を探すとするか。ミスター味野郎シーロンよ、金貨5枚はもらったぞ。くっくっくっ‥‥」

 闇の中、クラウドは怪しげな笑いを響かせた。




*                   *


 そして、決戦の刻は来た。

「ああ、今日はちゃんと来てくれた‥‥」

 シーロンは安堵していた。勝負を前にしてもう少し敵愾心を持っていても良さそうなものだが、二度もすっぽかされたあとでは仕方がない。

「能書きはいい。さっさと始めるぞ」

「望むところだ。吟遊詩人科の生徒に声をかけて、実況も頼んでおいた。貴様と決着を付けるには最高の舞台だ」

 公園には大きなテーブルが二つ用意され、様々な材料や調理器具が並んでいた。 「ところで、貴様のほうの審判は連れて来たか?」

「ああ。少し遅れるかも知れんが、そのうち来るだろう」

「わかった。勝負の方法は簡単だ。これから三人の審判に順に一人ずつ登場してもらう。そして我々の料理のうちどちらが優れているかを判定してもらい、これを三回繰り返してポイントの多いほうが勝ちだ」

「なるほど。審判一人につき一品か」

「一人でいくつもの料理を食べては、前の料理の味が残って審査に影響する可能性があるからな」

 シーロンは高々と右手を上げ、叫んだ。

「──では、初めてくれ!」

『はいっ、只今より料理研究会主催による第一回公開料理対決を行います! 赤コーナーは料理研究会会長、ミスター味野郎ことシーロンさん! そして対する青コーナーは、留年王魔術師クラウドさん! はたしてこの二人がいったいどのような因縁で戦うことになったのか、そして勝利を手にするのはどちらなのか!?  ──なお、実況はこの僕、吟遊詩人科1年生のルージャ・ヴィルトンが務めさせていただきますっ』

小型魔法拡声器を握り、現れたルージャが喋りだす。

『第一品の審判は、魔術師科の講師、セディス先生です』

「ハーイ、セディスよっ。頑張りなさいね、二人とも。変な物を食べさせたら承知しないわよっ」

 魔術師セディス。外見こそ若々しい美女だが、実は数百歳という魔女である。

 見物人たちが見守る中、二人の料理が完成した。

「見ろ、これがオレの『パララニア鳥のフライ』だ!」

 シーロンが叫ぶ。

『おや、これは美味しそうです。ここまで匂いが漂ってきそうですね。さて、クラウドさんのほうは何ですか?』

「ふん。俺の料理に名前などない」

『‥‥はあ。なんだか怪しそうな料理ですね。ではセディス先生に審査していただきましょう』

「じゃ、まずはシーロン君のほうから」 セディスは料理を口に入れた。「──うん、美味しいじゃない」

 場が少し沈黙した。

『あのーセディス先生、料理企画なんですからもう少し何かコメントを‥‥』

「こんなもの、言葉じゃ表現できないわよ。美味しいものは美味しい、それだけのこと。素材がどうの調理法がどうのだの、どうでもいいことだわ」

「‥‥‥‥。あまり褒められてるような気がしないな。料理研究会会長として‥‥

」 「次はクラウド君のね。──ああ、これはダメ。見ただけでわかるわ。パス」

「あのババァめ」 クラウドは口の中でつぶやき、それからシーロンに向けて言った。

「だいたい、最初から言いたかったんだがな‥‥」

「ん? なんだ?」

「“料理で勝負”というのはいったい何だ。たかが食い物に勝ちも負けもあるか。お前の価値観は料理しかないのか? 人生で起こる全てが料理で解決できるなどとは思わない方がいいぞ」

「‥‥き、キサマ、いきなり禁句を──!! 負け惜しみはやめろ!」 『ということで、まずはシーロンさんが一ポイントを先取しました! さあ、次の審判は?』

「次は、学生代表ということで、ついさっきそこらの生徒から無作為に選んでお願いした。どうぞ、アーリィ君!」

『おっと、第二品の審査を担当するのは弓兵科2年生のアーリィさんです! ―しかし、かく言う僕もそうですが、このアーリィ先輩は“トゥインクル・スターズ”の一員でクラウドさんとはパーティー仲間。僕は中立な実況をしておりますけれども、これは少々シーロンさんには不利ではないでしょうか?』

「なにぃっ!? オレはそんなこと聞いてないぞ!」

 驚くシーロン。だが後の祭りだった。

「安心して。ボクがあんな腐れ外道魔術師の味方をするわけないじゃない。逆ならいざ知らず、ね」 登場したアーリィが言った。

「誰かと思えば呪われた馬鹿の小娘か。今日はあの剣は持っていないのか?」

「うるさいなっ。剣は部屋に置いてきたんだよ! 今はそんなこと関係ないでしょ! もうボクは怒ったからねっ、絶対シーロンさんの勝ちにしたげる!」

 例によってクラウドとアーリィの口喧嘩が始まった。

『あの、お二人とも、喧嘩はあとでお願いします』

「‥‥だってさ。ホラ、早く料理を作ったら? 負けるのはわかってるけどね」

「ふん、小娘が」

 時間を置き、二人の料理ができあがる。

「今回は俺から食べてもらおう」

 クラウドがスープ皿を持って進み出た。

「‥‥いい度胸じゃない、クラウド。この大観衆の前であんたの敗北を宣言してあげる」

 アーリィはスプーンを持ち、スープを一口すすった。

「‥‥! これは!?」

 その瞬間、観衆の間からざわめきが起こった。

『おおっと、突如アーリィさんの姿が消えてしまいました! 何があったのでしょうか? そして審査の行方は?』

 何が起こったのか、ルージャには見当が付いているはずだが、彼はそう実況した。プロである。

「キサマっ、何を作ったんだ!?」

 シーロンがクラウドに詰め寄る。クラウドは地面に転がったスープ皿と一振りの剣を見ながら言った。

「何もしちゃいない。ただ隠し味にワインを混ぜこんだだけだ。ほら、手を離しな」

 平然と続けるクラウド。

「ともかく、俺の料理を食べてアーリィは審査をすることができなくなった。つまり、今回は引き分けだな」

「くそっ‥‥!」

 シーロンは自分の料理を地に叩き付けた。

「だが、これでキサマの勝ちはなくなった! 次に勝っても勝負は一対一だ! さあ、キサマが用意した審判を出せ!」

「まあ、そうカッカするな。──フッ、どうやらおいでなすったようだ」

 また、学生たちの一角が騒がしくなった。そちらを見たシーロンは腰を抜かした。一匹のトロールが、人波をかき分け、のしのしとこっちにやって来る。

「な、何だ、あれは!?」

「俺が選んだ審判‥‥〈金〉の理事ミトのペット、トロールのギンザ君だ」

 涼しい顔でクラウドは言う。

「さあギンザ君、よろしく頼む」

「‥‥ワカッタ‥‥」

 トロールは低くそう答え、料理ができるのを待った。シーロンは動揺しながらも、料理に取りかかった。

『さあ、泣いても笑ってもこれが最後の一品! はたしてギンザさんの審査は?』

 シーロンが恐る恐る皿をトロールに差し出す。ギンザは手づかみでその料理を口に放りこんだ。

「‥‥コレ‥‥マズイ‥‥」

 ギンザは料理をペッと吐き出し、皿を引っ繰り返した。

「──ではギンザ君、口直しにこれをどうぞ」

 クラウドが出したのは、巨大な毒々しい色のキノコをただ焼いたものだった。

 ギンザはがつがつとキノコを貪り食った。

「そ、そんなバカな! そんなものがオレの料理より旨いはずがない! インチキだ、他の人間を呼んでやり直せ!」

 シーロンがルージャに叫びかけたが、それをクラウドが引き戻す。

「見苦しいぞ、シーロン」

「なんだと?」

「お前は料理において最も大切なことを忘れていたのだ。絶対の美味などというものは存在せん。味覚には個人差がある、ましてや人間とトロールではな。──いいか、料理とは相手をもてなすために真心を込めて作るもの。ならば、相手に合わせて品を変えるのが当然だろう」

 クラウドはギンザを指さす。

「見ろ、あの美味しそうな表情を。あの表情の前には、人間もトロールも関係あるまい」

『おっと、素人のくせに態度は偉そうですが、クラウドさんにしてはマトモな発言です!』

「認めん、認めんぞ、俺は! だいたいこれでクラウドが勝ったとしても、まだ引き分けじゃないか!」

「そこまで言うならわかった。お前は『俺をうならせるような料理を作れ』と、こないだ言ったな。ではあの料理を食ってみろ。そして味わうがいい、俺の心を!」

 クラウドに言われ、シーロンはキノコを一かけら口に入れた。

「うぐッ!?」

 とたんに地面にひざを突く。

「おお、そんなに目を白黒させてうなり声を上げて! 俺の心を受け止めてくれたんだな、シーロンよ!」

 クラウドは芝居がかった調子で叫び、シーロンに駆け寄った。助け起こすふりをして、その耳元で小さく囁く。

「‥‥言い忘れていたが、そのキノコは人間が食うと猛毒なんだ‥‥くっくっくっ‥‥」

「んがっ!?」

「このままじゃ命にかかわるかもな‥‥ところで、俺はたまたま偶然に解毒剤を持っているんだが‥‥売ってやってもいいぞ。金貨5枚ぐらいでな‥‥」

「うぐぐ‥‥」

 シーロンは懐から金貨を取り出した。握手すると見せかけてクラウドはそれを受け取った。

「そうだ、料理を競うなんて馬鹿げたことだ。大切なのは相手を思う心なのだ。さあ、こんな勝負は引き分けで終わらせて、これからは共に精進しようではないか!」

 クラウドがさりげなく投げ捨てた解毒剤を、シーロンは必死で飲み下す。

『これは何とも思わぬ幕切れ! しかし今、互いに力を認め合った二人に会場から暖かい拍手が送られております! ──では今日はこの辺でっ。実況は、ルージャ・ヴィルトンでした』  大きく手を振るルージャ、まだ剣のままのアーリィ、キノコを頬ばっているトロール、ぞろぞろと帰りかける野次馬たち、そして呆然とへたり込むシーロン‥‥。




*                   *


 ──クラウドとは、こういう男である。





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