「そんなのアスカつまんない」












 翌日の朝、ユウキは、更衣室の自分のロッカーを開けた。剣はいつも部屋に置いてあるが、それ以外の装備はここにしまってあるのだ。

 ほとんど傷のない革の鎧を身につけ、昨日のうちに準備しておいた、様々な道具の入ったザックを片方の肩にかつぐ。慎重なユウキは他にも、服や靴まで迷宮用のものを用意してきていた。

「おっと、忘れるところだった」

 さっき買いこんできた食料などをザックに詰め込み、ユウキはロッカーを閉めた。

「よし。行くか」




   第五章 人の心は

 

 ユウキの意気込みは、いきなり水を差された。

「‥‥予想しておくべきだった。まだまだ俺も甘いな」

 ここ、試練場の前で待つこと三十分、ルージャが呼びに走ってからさらに三十分。

 アーリィは、見事に遅刻していた。

『こんなこともあろうかと、検定開始の時刻を三十分早く言っておいて正解でしたね』と、アーリィを呼びに行く前にルージャが言っていたが、それでも他の参加パーティーはとっくに迷宮に入ってしまっている。

「ねーねー、キャンデー食べてもいい?」

 忍装束のアスカが、自分のバッグの中を見て言った。ティーナがそれをたしなめる。

「いけませんよ、アスカちゃん。それは迷宮の中でのおやつでしょう。もう少しですから、いい子で待っていましょうね?」

「ぶー」

 今日はティーナも、普段着ではない。《海》の寺院の、女性神官用の正装に身を包んでいる。

 薄いベージュのゆったりした法衣。そで口と裾には、波を型取ったマリンブルーの紋様が刺繍されている。だが何より目を惹くのは、妖精の羽のように背中に広がる、大きく結ばれた水色のリボン。

 清楚であると同時に、華やかでもある。

 学園の男子たちの間でも人気の高い服ではあるが、ティーナはあまりこれが好きではなかった。背のリボンが自分一人では結べず、誰かに手伝ってもらわねばならないのだ。彼女は、そういうことを他人に頼むのが苦手なのである。

「‥‥ティーナ」

 アスカとティーナと三人だけというのは、どうも居心地が悪く、ユウキは思い切って話しかけた。今までの彼ならば、思いもしなかった行動だ。

「手持ちぶさたなのはわかるけど、なにもそんなことをする必要はないんじゃないか?」

 彼女は、どこからか見つけてきたホウキで、黙々と辺りを掃除していた。

「ええ。でも、こうしていると不思議と落ちつくんです」

 行儀良く竹の柄を持ちながら、ティーナは微笑んだ。

「──ごめーん! 待った?」

 向こうから明るい声が響いてきた。アーリィである。

「いやぁ、寝坊しちゃってさ。失敗失敗」

 言いながら、アーリィは少し真面目な顔つきで、ユウキの顔を覗き込んだ。

「元はと言えばボクが言い出したことなのに、ごめんね。怒ってる?」

「べつに」

「もう。少しぐらい怒ってよ。まるでボクが信用されてないみたいじゃんか」

「じゃあ言うけど、アスカでさえ時間を守ってるんだぞ。女は身支度に時間がかかるのはわかるけど、それはティーナだって同じはずだし」

「あ、いえ、私は早く目が覚めただけです‥‥」

 『起きた』ではなく『目が覚めた』と言う辺りが彼女らしい。

 アーリィは背負っていた弓を手に取り、弦を軽く鳴らした。

「まぁ、この分は戦いで取り返すからさ。期待してて」

 彼女の弓は、弾力があり頑丈なバズルの木で造られたもので、入学当時からの愛用品だ。

「アーリィ先輩、荷物はそれだけですか?」

 あとから来たルージャが聞いた。彼女は、弓と矢筒の他は、例の小剣と小さなウェストポーチぐらいしか持ってきていない。

「ボクは矢を持ち歩かなきゃならないし、それに急いでたから。道具とかはみんなをアテにしようと思って」

「大雑把だな」

「信頼だよ、信頼。足りないものを補い合うから仲間なんでしょ。──さ、早く行こう。これ以上遅れるわけにはいかないからね」

「あの‥‥クラウドさんは待たないのですか?」 ティーナが言った。

「来るわけないよ、あんな奴。自分で言ってたじゃん」

「‥‥そうですか」

 残念そうなティーナを見て、アーリィが納得できないといった様子で言った。

「どうしてあんな奴にこだわるの? さんざんひどいこと言われたじゃない」

「でも、クラウドさんのあの態度、本心じゃないような気がします。それに‥‥なんだか、あの方、懐かしいような不思議な感じがしました。たぶんクラウドさんが純粋なエルフだからなのでしょう。‥‥私、エルフというものについて、もっとよく知りたいんです。私だって半分はそうなんですから」

 クラウドの話になると、ティーナはいつもより口数が多くなる。それだけ彼女のコンプレックスが深いということかもしれない。アーリィはそれを察した。

「ん‥‥でも、来ないものはしょうがないよ。とにかく検定に行こう。また機会はあるよ、きっと」

「──はい」

 アーリィたち五人は、試練場の入口に向かった。一見、それはただの小さな建物にしか見えない。前面は扉もなく開放され、地下へと続く大きな階段が口を開けている。その横に受付らしきカウンターがあるが、もはや誰の姿もない。

「勝手に入っちゃっていいのかな?」

 階段を覗き込みながら、アーリィが言った。そのとき、彼女の足元の床がいきなりパカッと開いた。

「うわっ‥‥!?」

 慌ててアーリィは飛びのく。床の開いた部分から、一人の男が這いだしてきた。

「どうやら、間に合ったみたいですねぇ」男は言った。

 その男の顔を見て、ルージャが声をあげる。

「あなたは‥‥〈宮〉の理事ナン様!」

「えっ!?」

 アーリィたちは驚いた。彼女らはナンを実際に見たことはない。すでに初老の域に達しているはずだが、年齢を感じさせない風貌である。確かに、後ろで一つに束ねた長い髪には、いくぶん白いものが混じっているものの、声も口調もずいぶん若々しい。

「どうしてまた、そんな所から‥‥」

「これは、かつて私が密かに作った隠し通路。せっかくだからたまには使おうと思いまして   普通に歩いて来たほうが早いんですけどね。あぁ、そうそう、この通路のことは誰 にも内緒ですよ」

 試練場も含め、学園の全ての建造物を管理するのが〈宮〉の理事である。ナンはその立場を利用して、あちこちに彼だけが知る隠し通路を作っていた。特に深い用途や意味はなく、ただ彼の楽しみのためだけに、である。困った理事だった。

「さて、今日は皆さんに忘れ物を届けに来ました」

 ナンは懐から何かを取り出した。

「それは‥‥妖精機」ルージャが言う。「そう言えばもらっていませんでしたね。セディス先生が、うかれてて渡し忘れたんでしょう」

「妖精機って?」

 ナンが説明を始めた。

「学園によって管理される一種の魔法人形ですよ。試練場において、生命の危険にさらされたり、罠にはまって身動きが取れなくなったりしたおバカさんたちの存在を、担当職員に知らせるのが役割です。でき得る限り迷宮内での事故を回避するためにね」

 ナンの言葉通り、迷宮内での学生パーティーたちの情報を地上に伝えるのが、この妖精機なのだ。掌ほどの大きさの硬質な人形で、確かに妖精と呼べるフォルムをしている。

「他にも検定においては、この妖精機を通して、倒したモンスターの数なども考慮しますから。妖精機なしで得をすることはありませんよ。さらにこの“ピコ”は私の特製、ぜひとも持っていきなさい。なにしろこの試練場は、私の自慢の迷宮ですからねぇ。一筋縄ではいきません。絶対にね」

 薄く笑いながら、ナンは妖精機の額の紋章に指を触れさせた。妖精機ピコはふわふわと宙を漂い、ユウキの頭上で止まった。

「ところで‥‥メンバーが一人足りないようですが?」

「あ‥‥魔術師が一人、その、急病で」

「なるほど、魔術師がね。それなら、君たちの頑張り次第で穴を埋めることはできるでしょう。そもそも魔術師というのは、面倒なことを簡単なことに変えるのだけが役目で、絶対に必要な職ではありません。──ただし、相応の苦労は覚悟しておきなさいね」

 ナンは脅かすようにそう言い、階段を指さした。

「さ、早く行きなさいな。君たちが試練場に入るのを見届けるのが楽しみで、わざわざここまで出向いてきたんですから。頑張るんですよ」

「ありがとうございます、ナン様」 ティーナが頭を下げた。

「いえいえ‥‥」

 ナンは、ユウキたちが階段を降りていくのをじっと見送っていた。一行の姿が消えると、彼はゆっくりとつぶやいた。

「ふふ‥‥私の入魂のトラップの数々、どれだけ引っ掛かってくれますかねぇ。本当に楽しみです」

 ナンはさも愉快そうに笑うと、壁の何もない部分に手を触れた。小さな音が響き、彼が出てきた所とはまた別の床が開いた。

「さーて、続きは他の理事たちと一緒に見物するとしましょうか」

 そう言うと、〈宮〉の理事ナンは、再び隠し通路の中に姿を消した。




*                   *


「もっと洞窟っぽい所かと思ったけど、そうじゃないんだな」

 まっすぐな通路を歩きながらユウキが言った。綺麗に整備された石壁が、びっしりと続いている。

「正方形を基本単位として設計されていますからね」

 例によって解説したのは、言うまでもなくルージャである。

 整えられているのは壁や床ばかりではない。天井には、規則的に間隔をおいて照明まで付けられていた。

「こういうのって、地図を書くのが簡単そうで難しいんだよね」

 アーリィの言葉に、ユウキが反応した。

「‥‥この迷宮の地図を作って売れば、儲かるんじゃないか? いや、もうすでに誰かが作って出回ってるはずだよな、普通」

「それは無駄ですよ、先輩」

 ルージャがあっさり否定する。

「一週間ごとに、この迷宮の内部は完全に改装されますからね」

「えっ!?」

 そのことはアーリィも知らず、驚いた。だがルージャの言ったことは嘘ではない。〈宮〉の理事と迷宮委員会ならば、その程度のことは小部屋の模様替えぐらいの気分でやってしまう。──これが、このラグナロック学園なのだ。

 また改装と言っても、わざと一部は以前のままにしておいたりするので、なおタチが悪い。先週なら下への階段があったはずの部屋に強力なモンスターを配置したり、トラップの仕掛けられていた場所に宝箱を置いておいたり、などだ。

「まあ、それでも、できる限り試練場の情報を学生に提供しようという試みはあります」

 ルージャが歩きながら、自分の荷物の中から小さな冊子を取り出した。

「それがこれ‥‥吟遊詩人科の有志が毎週発行している、『ダンジョン・ウォーカー』です。実は僕も編集に参加しているんですよ」

 相変わらず、得体の知れない少年である。

「試練場だけでなく学園についての情報も色々載ってますし、連載記事『このモンスターがすごい!』も毎回好評です。また、先々週の特集『学園の隠れたデートスポット 24』は、かなりの反響がありました。皆さんも、面白いネタを見つけたら僕に教えてくださいね」

 ルージャはそう言って、手にした小冊子をひらひらさせた。その拍子に中に挟んであった紙切れが床に落ちた。

「これは?」

 アーリィが拾い上げる。

「ああ、それは今回の検定の実施要綱ですよ。皆さん、持ってないだろうと思って貰ってきたんです」

「気がきくねー」

 アーリィはそう言って、要綱を読み上げはじめた。

「──昨日未明、学園付近の山中で農業を営む魔術師のA氏(三十五歳・仮名)が、学園倉庫に侵入。護符を十個奪って逃走した。A氏はそのまま試練場に逃げ込み、地下五階付近で立てこもっている模様‥‥」 アーリィは顔を上げ、ルージャを見た。「‥‥何これ?」

「それは、背景ストーリーの設定というヤツですよ」

「何か意味があるの?」

「全くありません。気分の問題でしょう」

「‥‥‥‥。とにかく、地下五階まで行って、教師と模擬戦闘をやって勝てばいいってことだよね」

「まあ、そういうコトですね」

 ルージャがそう答えたとき、後ろを歩いていたアスカが彼の服を引っ張った。

「あそこ、扉があるよ」

 しばらく先で一本道の通路は終わりを告げ、鉄製の大きな扉が行く手を塞いでいる。

「アスカにまかせて。罠がないか調べてくるねっ」

 アスカはトコトコと扉に駆け寄り、それを見上げた。

「ほらほら、頼もしい限りじゃないですか。ね、皆さん」 ルージャが周りに同意を求める。

 これまで幾つものパーティーが通過したはずのその扉に、罠などあるわけがない。しかしアーリィたちは、黙って見ていてやることにした。

 アスカはじっと扉と対峙していた。静かな時間が流れ、やがて彼女はくるりと振り向いた。

「どう、罠はあった?」

 アーリィが尋ねる。

「‥‥えへへ♪」

 アスカはチロリと舌を出した。

「鍵穴に背が届かないから、よくわかんないや」




*                   *


 扉を開けると、そこはガランとした部屋だった。

「役に立たない忍者もいたもんだ」

「大丈夫、育ち盛りですからすぐに伸びます」

「そういう問題かな‥‥」

「あの‥‥」 ティーナがおずおずと言った。「まだこの部屋が安全とは限らないのですから、静かにしたほうがいいと思うんですけれど‥‥」

「おっと、そうでした。ここからがいよいよ本番といったところですね」

 全員、この試練場に入るのは初めてである。彼らは珍しそうに辺りを見回した。

 部屋の隅に、いかにもといった感じの大きく豪華な宝箱が置かれている。しかし開けられた形跡はない。

 その理由は、次の部屋へと続く扉の両脇に立っている、二体の石像にあった。右はたくましい英雄、左は美しい姫の像だが──。

「あれね、トラップだよ」

 アスカが得意そうに宝箱を指さした。

「きっとね、あの箱を開けるとね、石像が動きだすの」

 確かに、いきなりこんな宝箱とは、あからさまに怪しい。だから先にここを通過したパーティーも、誰も開けていかなかったのだろう。

「しかし、これはひどいもんですねー」

 石像を眺めながら、ルージャがつぶやいた。見るも無残な姿である。顔や身体にインクで書かれた、『バカ』『こんなトラップに引っ掛かるか!』などの文字。付け足された眉毛やヒゲ。おまけに右の英雄像は、筋骨たくましい裸の胸に、誰が持ってきたのやら白いブラジャーを着せられていた。

 いかにも学生らしいイタズラであった。誰か一人がやり始め、後のパーティーになるほどエスカレートしていったのだろう。

「この学園の生徒は、これだから‥‥」

 アーリィたちが、何とも言えないといった面持ちで石像を見ていると、背後でカチャリと音がした。振り向くと、アスカが例の宝箱の蓋を持ち上げていた。

「なっ‥‥!?」

 右の石像の眼が、カッと開いた。低いうなりのような音が響き、石でできているはずの手足がゆっくりと動きだす。鈍い動作ではあるが、それは人間の歩く姿にそっくりだった。そう、石像は明らかにアーリィたちのほうに向かってきているのだ。

「アスカ! トラップだってわかってて、どうして開けちゃうの!?」

 慌てて一か所に固まりながら、アーリィが叫んだ。

「‥‥だって」

 悪びれもせずにアスカは答える。

「石像が動くの、見たかったんだもん。せっかくあるのに動かさないなんて、そんなのアスカつまんない」

 アーリィは、額を手で押さえた。

「もう、この子ってば‥‥」

「まあまあ、アーリィ先輩。何はともあれ、記念すべきオープニング・バトルです。張り切っていきましょう」

「──よりによって、こいつとか?」

 剣を抜きながら、ユウキが言った。

 八の字ヒゲを貼りつけ、女物の下着を付けた無表情な石像が近づいてくるのは、別な意味で恐ろしいものがあった。

「みんなは、下がっててくれ」ユウキが走った。

 素早く側面に回り込み、石像の首元に剣を振り下ろす。乾いた音とともに、小さな光が飛び散った。ユウキの剣が刃こぼれしたのだ。石像は動きを止め、ユウキに殴りかかる。ユウキはとっさに後ろに飛んで、石の拳をかわした。

「強いな、こいつ。顔にバカとか書いてある割に」

 表情も口調も冷静なままだが、彼は続いてこうつぶやいた。

「‥‥さて、どうしたものだろう」

 アーリィが援護に矢を放つが、もちろん石像相手に通じるはずもない。

 アスカをかばうティーナの隣で、ルージャがのんきに言った。

「これは明らかに対戦士用のトラップですねー。直接攻撃にはほぼ無敵──ダメージを与えられるとしたら、攻撃魔法でしょう」

「じゃあ‥‥」

「はい。平たく言えば大ピンチです。僕らのパーティーには魔術師がいませんから」

「落ちついてる場合じゃないよっ! どうすればいいの!?」

 ルージャは、静かに前に進み出た。妙に余裕がある。

「でもいいですか、皆さん。ナン様がおっしゃっていたでしょう。魔法というものは、面倒なことを簡単にするだけでしかないって」

 ルージャは謎めいた微笑を浮かべ、石像の前に立ちはだかった。

「‥‥そう、誰にでもできるんですよ。本当はね」

 ルージャは拳を握り、構えた。

「よく見ててください‥‥」

 石像に向かって、ルージャは軽くパンチを放った。格別、速くもなければ重くもない。 ただ普通に殴ったという感じだった。

 ──だが次の瞬間、石像の上半身に亀裂が走ったかと思うと、その腰から上が粉々に砕け散った。

 皆が唖然と見つめる中で、ルージャは飄々として言った。

「動いたのが男性型のほうでよかったですよ。僕はこれでもフェミニストを自認してますからね。石像とは言え、女性を殴るのは気がひけます」

「‥‥そ、そういう問題じゃなくて‥‥」 アーリィがようやく口を開いた。「どう‥‥やったの? 手は大丈夫?」

「はい。繰り返しますが、これは誰にでもできるんですよ。ユウキ先輩やアーリィ先輩も、そのうちに授業で習うはずです。僕はわけあって以前から修行してたんですけどね。では、種明かしといきましょう」

 ぱんぱんと手を払い、ルージャは続けた。

「僕たちは日頃よく精神力とかいった言葉を口にしますが、その通り、人の精神というものは魔力の容器みたいなもんです」

「魔力の、容器‥‥?」

「例を挙げましょうか。‥‥皆さんが、ある理由で教師に怒られたとします。さて、どうしますか?」

 質問の意味がよく掴めなかったが、アーリィは反射的に答えを返した。

「うーん。それが納得のいかない理由なら、逆にその教師に食ってかかるだろうな、ボクは」

 つられて、ユウキとティーナも答える。

「相手が怒るのは、俺とは関係ない。自分が正しいと思ったら黙ってそれを貫くし、間違っていれば改める。それだけさ」

「私は‥‥ただ謝って、反省して‥‥それしかできないと思います。──私は、心の弱い女ですから。でも、これは自分を甘やかしているだけかもしれません‥‥」

「んー、アスカはねぇ‥‥?」

「あ、アスカさんは結構です。まだちょっと難しいでしょうから」

 アーリィが、少し苛立った様子で言った。

「勿体ぶらないで、早く説明してよ」

「今の皆さんの言葉に、もう答は出ていますよ。人は、他人の怒りを受けると傷つきます。ですからそれを回避するために、様々な反応をするわけです。──ある者は自分も怒りで対抗し、相手の怒りを相殺する。またある者は、自分と相手とを隔絶して怒りを跳ねのける。そしてまたある者は、自分を慰めることによって痛みを和らげようとする」

 ルージャは、一同の顔を見渡した。

「さて、ここで考えてみてください。これらは、一般的に攻撃魔法・防御魔法・回復魔法と呼ばれるものと、同じじゃありませんか?」

 アーリィはハッと息をのんだ。

 敵の攻撃を、攻撃魔法で相殺する。防御魔法で跳ね返す。回復魔法で受けた傷を癒す。‥‥確かにそれらは、人の感情の動きにあてはまるのだ。

 ルージャは微笑みを浮かべたまま、手を自分の胸の辺りに当てて、静かにはっきりと言った。

「──そう。言わば、人の心は、魔法なんですよ」

「心は、魔法‥‥」ティーナが繰り返す。

「さっき、精神は魔力の容器と言いましたが、さらに厳密に例えると循環器ですね。肉体が、食物や水を摂取して物理的なエネルギーに変えるように、精神は世界に満ちた魔力を吸収し、感情という形の魔法に変えるわけです。怒りによって人を傷つけ、優しさによって人を癒すというように」

 どんな人であれ、自分でも気づかぬうちに、ごくわずかな魔力を操っているのだ。喜び、哀しみ、愛情、怒り‥‥。それらの感情はみな、一種の魔法なのだから。

 ルージャは床から石像の破片を拾い上げた。

「そして肉体と同様、感情の力も、その機能を理解した上で訓練を重ね、正しくコントロールすることによっていくらでも強くなります。この力こそ──心の力、“情念(パトス)”です」

「パトス?」

「ええ。俗に闘気とか霊力とか呼ばれるものの正体が、これですね」

 そもそも、感情に潜む力を利用することは、ごく一握りの達人だけが無意識のうちに体得できた極意であった。それをこのラグナロック学園が研究、体系化し、パトスと名付けたのである。

「もうおわかりですね? 先程のは力で殴ったのではなく、拳を通してパトスを叩き込んだわけです。‥‥こういうふうに」

 ルージャの手の中の石片が、さらに細かく砕け、飛び散る。

「もちろんパトスは破壊のためだけのエネルギーではありません。心というものは、他者を傷つけるためだけにあるんじゃないですからね。応用すれば、一時的に運動能力を高めたり、相手の打撃を防御したりすることも可能です。さらに極めれば、その力だけで宙を舞うことも」

「物語のヒーローみたい‥‥ホントに、ボクにもそんなことができるの?」

「ええ。アーリィ先輩やユウキ先輩は戦士系ですから、数カ月もあれば僕を超えるでしょう。‥‥超えてくれなければ、困ります」

 ルージャの雰囲気にのまれ、ユウキたちは黙っているほかはなかった。その沈黙を破って、これまで退屈そうにしていたアスカが言った。

「‥‥ねーねー、あのねぇ」

「はい、何でしょう? アスカさん」

「あの宝箱のトラップ、あれで終わりじゃないと思うよ」

 アスカの言葉が聞こえたかのように、扉のほうから何かがきしむような不愉快な音が起こった。

「ほら、ね? アスカ偉いでしょ」

 アスカが胸を張った。姫の石像までが動きだしたのだ。

「なるほど」 ルージャが言った。「一体目を倒すと、二体目が作動するようになっていたわけですね」

「だけど、ずいぶん間があったな」

「そこが狙い目ですよ。もともと試練場のトラップの目的は、学生を傷つけることではなく、困らせることですから。石像を倒してホッと一息ついたところに第二弾がくるという、心理的トラップをも兼ねているんでしょう」

 ルージャには、すでにこの陰険なトラップの製作者が誰か、予想がついていた。間違いなく〈宮〉の理事ナンその人だろう。表面上の温厚そうな態度にだまされる者は多いが、ナンの若かりし頃の異名は、“トラップ・マスター”というのだ。

 その石像は、彫刻としては見事な出来ばえだった。姫の神秘的な美しさと表情が、冷たく粗い石の質感と完璧に調和している。学生たちもさすがに遠慮したらしく、顔には落書きがないほどだ。もしこの姫が実在していたとしたら、その瞳の輝きは幾多の男を魅了したことだろう。

 ──ところがこの石像は、あろうことか瞳から赤い怪光線を発射した。

 光線はアーリィの腰をかすめた。ポーチのベルトが焼き切れ、直撃した床からは煙があがった。アーリィは慌てて移動する。石像がそれを感知し、優雅なラインを持った細い腕を上げてアーリィに向けた。

「‥‥!!」

 手首から先が切り離されて砲丸となり、爆音とともに発射された。やはり二体目のほうが多機能のようだ。

「どうして、こんな綺麗な像に非人間的なことをさせるんだよっ!」

 必死でかわしながら、アーリィが叫んだ。かなり精神的にくるものがある。

「ルージャ、何とかして!」

「そうしたいのは、やまやまなんですけどね‥‥」

 ルージャは、珍しく困ったように答えた。

「さっきので大部分のパトスを放出してしまいましたからね。いわゆる無気力状態なんです。僕もまだ未熟ですから、そう連発はできないんですよ。ある程度、時間をおかないと」

「じゃあ、どうすれば‥‥!?」

 石像は、高速回転しながら光線を乱射しはじめた。

 そのときだった。

「‥‥‥‥汝‥‥‥‥よ‥‥」

「え?」

 アーリィはかすかに、聞き覚えのある声を耳にした。意識をそちらに集中してみる。今度は確かに聞こえた。

「‥‥逆位置のカード『審判』の導きに従い、その力を解放せよ──“雷神制裁”!!」

 一瞬にして空間を切り裂き直進する電光‥‥。そんなものを、アーリィは初めて見た。自然界ではあり得ない光である。

 その電光は石像の頭部を直撃した。アーリィはそこが吹っ飛ぶのを期待したが、意に相違して光は石像に吸い込まれるように消えてしまった。──その数瞬後。

 石像の表面に無数のスパークが走り、物言わぬ不気味な姫は、内部から弾けるように爆砕した。

「やった‥‥でも、誰が?」

 アーリィは電光の飛んできた方向に目を向けた。彼女らの入ってきた扉から、一人の男が姿を現した。

「この程度のガラクタ相手に手こずるとはな。情けないにも程がある」

「あんた、クラウド‥‥!?」

 クラウドはずかずかと部屋に入ってくると、床に落ちていたアーリィのポーチを手に取った。

 アーリィは一瞬、拾ってくれるのかと考えたが、甘かった。彼はそれを自分でしまいこんでしまった。

「ちょっと、それボクのだよ! 返してよ!」

「なにぃ? これは、今の戦闘による俺の戦利品だ。お前のものだという証拠はあるのか?」

「プライベートな物も入ってるんだからっ。あんたなんかに渡すわけにはいかないの」

「会話をしろ、会話を。一方的に自分の主張を述べるだけでは、ガキと変わらんぞ。‥‥まあいい、今日のところは見逃してやろう。その代わり、金貨一枚払え」

 クラウドは、アーリィのポーチを再び床の上に投げ捨てた。急いでそれを拾いながら、アーリィは言った。

「こんなことで、あんたに金を払う義理はないよーだ」

「ところがそれがあるんだな」

 ニヤリと唇を歪めて笑いながら、クラウドは手を出した。

「落下制御や透明化のような簡単な魔法と違って、カード・マジックはコインに封じられた魔力を使って発動するんだ。それぐらい知っているだろう。魔力を引き出したコインが、価値を失い二度と使い物にならないこともな」

 金・銀・銅の三種の鉱物は、世界を循環する魔力を吸収し蓄えるという不思議な性質を持っている。そういった価値があるからこそ、貨幣として経済の価値基準となっているわけだ。

「そういうわけで、魔術師は金がかかるのだ。俺があそこで魔法を撃ってやらなければ、貴様らは石像を倒すことはできなかったろうが。わかったらさっさと金貨を出せ」

「でも、クラウド先輩」

 ルージャが言った。

「あの“雷神制裁”の魔法は確か、『審判』のカードの銀の呪文(シルバースペル)ではありませんでした?」

 三種の金属はそれぞれ、宿る魔力の性質や量が異なる。そのため、どのコインを用いるかによって、魔法の威力や効果も大きく変わるのである。

「それがどうした。とにかく金貨一枚よこせばいいんだ。早くしろ。まったく、金に汚い奴らだ」

「だって、クラウド先輩が使ったのは銀貨‥‥」

「ルージャさん、クラウドさんはこんなことで嘘をつくような人ではありませんわ」

 ティーナが間に割って入り、自ら金貨を取り出した。

「クラウドさん、私がお支払いします。助けていただいて、ありがとうございました」

 ティーナは、人形のように小さく繊細な掌の上に金貨を乗せ、微笑みながらクラウドに差し出した。そのティーナの顔を見て、クラウドは言葉に詰まる。ややあって、彼はティーナの手を邪険に振り払った。

「どうしてお前はそうなんだ。カード・マジックを使うのは、僧侶であるお前も同じだろうが。自分のために残しておけ」

 言い捨てると、クラウドはくるりと後ろを向いた。

「さあ、先を急ぐぞ。もっと下の階で追いつくかと思っていたら、こんな所でもたもたしていやがって。不合格になったら金と時間の無駄だろう」

 そんなクラウドを見て、ティーナがルージャに囁いた。

「ところで、クラウドさん、どうして急に来る気になったんでしょう‥‥? とても嬉しいことですけれど」

「それはね、ティーナさん。あなたの魔法のおかげじゃないですかね」

 不思議そうな顔で、ティーナは問い返した。

「魔法? 私は何も‥‥」

「言ったでしょう。人の心は魔法   無限の可能性を秘めています。優しさが、頑に閉ざされた扉を開くことだってある‥‥ってとこですか」

 ルージャはちらりと大人っぽい表情を覗かせ、言った。

「あなたの魔法は、誰にも真似のできない素晴らしいものです。もっと自信を持ってもいいですよ」

 ティーナは見る間に顔を赤くして、うつむいてしまった。けっこう付き合いの長いアーリィは別として、知り合って間もない他人からこんなに褒められたのは初めてだったのだ。

「‥‥ところで、おねえちゃんたち」

 アスカが突然言いだした。

「せっかく苦労して開けた宝箱の中、見ないの?」

 クラウドが見事な素早さで箱に近づき、中を覗き込んだかと思うと──勢いよく箱を蹴りつけた。

「どうしたの?」

 アーリィたちも、宝箱の中身を見に集まった。そして納得した。

 箱の底に敷きつめられた真紅のビロードの上に横たわっていたのは、一体のクマのぬいぐるみだった。




*                   *


 茶色のフサフサした毛をなでながら、ユウキは言った。

「こいつがこの一連のトラップのオチか。純朴な奴が引っかかったら立ち直れないだろうな」

 この学園の生徒なら皆、こういう馬鹿げたノリにはある程度の免疫ができている。

「でも、わかりませんよ、ユウキ先輩。ただのぬいぐるみに見せかけて、実はものすごい秘密の隠されたマジック・アイテムだったりして」

「それはそれでイヤだな‥‥」

 ユウキは手にしていたぬいぐるみを、ぽんとアーリィに手渡した。

「なに?」

「あげるよ。プレゼントだ」

「さすがユウキ先輩、優しいですね。良かったじゃないですか、アーリィ先輩」

「‥‥あんたら、ボクを馬鹿にしてるだろ」

「さぁ、次の扉を開けましょう」

「そうだな」

 ユウキとルージャが、揃ってアーリィに背を向けたので、アーリィはぬいぐるみを持たされる羽目になった。

 扉を開けると、これまでとは違い、大きな空間が待っていた。広間のような部屋だ。入ってきた側を除いた三方の壁に、これでもかと言わんばかりの大量の扉が並んでいる。

「‥‥なんて言うか、妙な気分になっちゃうね。こんなに扉があると」

 アーリィが言った。扉の数は全部で二十近くはある。壁よりも扉の占める面積の割合のほうが大きいほどだ。

「ここで、パーティーごとに進路をわけようということでしょう。参加者全員がいつまでも同じルートで進んでいては、差がつきませんからね」

「つまり──」 ユウキが言った。「今から一発逆転を狙うなら、誰も通らなかった扉を選べってことか」

「じゃあ、ここだね」

 アスカが、ひときわ大きく豪華な扉の前に立った。

「どうしてわかるの?」

「ここ見てよ、おねえちゃん。剣で斬りつけたみたいな傷があるでしょ。他にもいっぱい、焦げた跡とか‥‥。それもみんな、新しいの。今日つけられたんだね、きっと」

「だから‥‥?」

 アーリィが聞く。アスカは、じれったそうに足踏みをした。

「普通に開く扉に、そんなことする?」

「あ、そっか」

 アーリィはその扉に駆け寄り、開けようとしてみた。びくともしない。今の時点でまだ鍵がかかっているということは、誰も入って行かなかったということだろう。

「すごいね、見直したよ、アスカ」

「えっへん」アスカは胸を張った。

 子供とは思えない観察力と洞察力だ。やはり忍者科の名は伊達ではない。

「さて、リーダーのユウキ先輩、どうします? 検定に合格したいんなら、ここを通るべきだと思いますが」

「けれど、盗賊の技でも戦士の力でも魔術師の魔法でも開かないときている。先人たちの残した教訓には従うべきじゃないか?」

 そのとき、扉を眺めていたティーナが、ぽつりと言った。

「この扉は、特殊な魔法の力で閉ざされているようですわ」

「何かわかるの、ティーナ?」

 アーリィがそう尋ねた。皆がティーナに注目する。ティーナは途端にしどろもどろになってしまた。

「いえ、あの‥‥なんとなく、そう感じただけで‥‥」

 するとクラウドが、小さく舌打ちをして、あとの言葉を引き継いだ。

「そいつの言う通りだ。その扉は、単純な解錠の魔法では通じん。特定の何かに反応するタイプだな。言葉か、物か、あるいは人か‥‥」

「じゃあ、これかな。“開け、ゴマ”!」

 アーリィが言ってみたが、無論、何の変化もない。クラウドが冷たく言った。

「鍵となるのは“馬鹿な小娘の命”かもな。そら、さっさとパーティーのために犠牲になれ」

「誰がよ」

「自覚ナシか。やれやれ、本物の馬鹿だ」

 大袈裟にため息をつく。アーリィは思わず、手からぶらさげていたクマのぬいぐるみを振り上げた。

 クラウドは素早く避けようとした。しかしそのとき、彼の視線はぬいぐるみに釘付けになった。つられてアーリィも頭上を見る。

 軽率な行動には代償がつきものだ。ぬいぐるみが、低いかすかな振動と共に輝きはじめていた。

「ウソ!? まさか、また呪いとか‥‥」

 バタンと大きな音がした。アーリィは咄嗟に首をすくめ、ぬいぐるみを取り落とした。

「なるほど。これが鍵か」

 ユウキのつぶやきに顔を上げると、例の扉が開いている。ぬいぐるみに反応したのだ。

「この学園って‥‥」

 今さらのように、アーリィは言った。

「‥‥変だね‥‥」




*                   *


 学園理事会室   そこでは理事たちが、白い壁に映し出された画像を眺めていた。妖精機ピコを通して送られてきたものである。

「変と言われているが、どうするね、ナン殿?」

「褒め言葉ですよ。それこそが、私が私であることの証です」

 足を組んで椅子に身体を預け、愉快そうにナンは言った。

「でも、自分で仕掛けておいて何ですが、あの宝箱に手を出すとはね。さすが勇者のパーティー、行動に予測がつきません。トラップを作動させてくれたのはありがたいですが」

「しかし、けっきょくあの石像は倒されてしもうたぢゃろ?」

「引っかけることにまず意味があるんですよ、ミト殿。突破されたかどうかは大した問題ではありません」

「‥‥まったく、厄介な性格ぢゃのぉ」

 ドワーフの老婆、〈金〉の理事ミトは呆れた。

 いくら〈宮〉の理事ナンと言えど、あれほどの石像を作るには何日かかかっているはずである。それを破壊されたというのにナンは、まるで客が料理をうまそうに食べているのを見たコックのような顔をしている。

「ともあれ、あの扉を開いたことで、彼らもずいぶん有利になりました。なにせ、あの先の通路は『最短コース』です。今回のこの検定、見どころが出てきましたねぇ」

 ナンは、届かぬと知りながら、壁に映ったユウキたちに声援を送った。

「楽しませてくださいよ、諸君」




*                   *


 ユウキたちは、慎重に扉の向こうに足を踏み入れた。

「前人未到、いい感じですねー」 ルージャがのん気な調子で言う。

 先にはまた、真っ直ぐな通路が続いている。

「怪我の功名、か。あそこで宝箱をやり過ごしていたら、ここには入れなかったんだからな」

「アスカの手柄だね」

 そう言ったアーリィは、突然、足を滑らせて尻餅をついた。

「またか‥‥」ユウキが静かに言う。

「うるさいなぁ。だって、この床、なんかツルツルしてない?」

 ルージャがふと足を止めた。先程の『ダンジョン・ウォーカー』を取り出し、パラパラとめくり始める。

「どうした?」

 クラウドが、不審に思い尋ねた。

「いや‥‥アーリィ先輩の言葉でピンと来たんですがね‥‥」

 ルージャの視線が、とあるページで止まった。

「やっぱり。ここは──」

 床がガクンと揺れた。身体が後ろに傾く、いや、床が前方に傾斜していく。

「ちょっと、どうなってんの!」

 必死で壁にしがみつき、アーリィが言う。

「──ここは、先週までダストシュートがあった場所なんです」

 当然のことながら、地下一階は最も利用者の多い階である。学生たちが残していくゴミや不用品もそれに比例した量になる。それらをまとめて片づけるための設備が、これだ。

「じゃあ、ボクたちもゴミみたいに処分されちゃうってこと!?」

「それは、今の時点では何とも言えませんし‥‥」 床は容赦なく垂直に近づいていく。「‥‥言っていられる状況でもないですね、どうやら」

 磨きあげられた床に、彼らの抵抗は通じない。彼らはそのまま下へと吸い込まれていった。





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