と | こ | ろ | で | ア | ン | タ | 誰 | ? |
初代ドラクエの5ヶ月後、と言えばこのゲームの発売時期がわかってもらえるだろうか。
ファミコンの推理ADVとしては屈指の知名度を誇るこの作品は、本誌で取り上げるにはメジャーすぎると思われるかもしれない。だが、今日はその根強いトラウマを掘り起こしてみたいと思う。
このゲームには、助手役としてあの有名なワトソンが登場する。では主人公はホームズなのかというと、版権を気にしたのかチャールズ卿という得体の知れない紳士が主人公。職業は探偵らしいのだが、知名度のともなわない探偵ほど怪しい職業はないという生きたサンプルだ。
最初に気になるのは、なぜワトソンがチャールズと行動を共にしているのかという点だが、深く考えるのはやめておこう。どうせゲーム中ではもっと理不尽な謎が山ほど出てくるので。
おそらく、『最後の事件』以降、ホームズが行方不明となっていた空白の期間の出来事なんだろう……とか、設定にまで余計な想像をめぐらせてみるのが、推理ADVの醍醐味と言えるだろう。たぶん。
かたや名探偵の助手、かたや謎の迷探偵。ラーメンライスのような絶妙の即席コンビが、船上という閉ざされた空間で起きた難事件に挑戦!
なんともワクワクしてくるじゃないか。 ……するよね? してください。
「セントルイスを出て、広大なるミシシッピー川を下り、ニューオリンズへと向かう外輪船デルタ・プリンセス号。
その一等船室では、探偵チャールズが助手のワトソンをつれて乗りこんでいます」
青い海。青い空。そして、青いチャールズ。
さわやかなイメージで始まるゲーム本編。
「こんなすばらしい日に、だれが殺人などという恐ろしい出来事を考えられただろうか」
……でもまぁタイトルが『殺人事件』だし。
一等船室というわりに寝床は2段ベッドな部屋からゲームスタート。全身青ずくめの探偵チャールズ卿と、その後ろをオプションのごとく的確にトレースする助手ワトソン。
とりあえず事件らしい事件はまだ起こっていないので、
「デッキに出て散歩がてらに他のお客さんにごあいさつでもしてこようか」
と、部屋を出る二人。まずは隣の部屋に入ってみることにする。だって1号室って書いてあるし、まずはここからでしょう普通。
などと思いつつ部屋に入ってみて一歩前に足を踏み出したその瞬間、悲劇は起こった。床に仕掛けられた四角い落とし穴に綺麗にハマって、そのまま下に落ちていくチャールズ卿。
「うぁー・・・」
やる気のない悲鳴とともに、あわれチャールズ卿はいきなり死亡。
「あっ! せんせい! こ、この床は、だれかの罠だったんだ!
この高さから落ちたのでは先生は…。あぁ、もし最初からやりなおすことができればなんんとかなるのに・・・」
罠って何よ。
ワトソンのセリフの誤字がさらに神経を逆なでするこの開始直後の1シーンにより、このソフトは全国のファミコン少年にトラウマを植え付け、長く語り継がれることとなるのであった。
なお、これが本当の「ミシシッピー殺人事件」の全貌だという説あり (被害者はチャールズ)。 あのポートピアを超える斬新なオチである。
いやまぁ誰がいつどうやって落とし穴を仕掛けたのかとか、船員は気づかないのかとか、そもそも誰を何の目的で落としたかったのかとか、下の階に落ちただけで死ぬチャールズの前世はスペランカーかとか、即座に10個以上の疑問で頭がいっぱいになるけど。
恐 | 怖 | ! | 死 | 体 | を | 踏 | む | 男 |
自分の生命を賭けてまで殺人事件の捜査なんぞしたくないというのが本音だが、とにかく最初からゲーム再開。
まず事件を解決するためには事件を発見しないといけないので、足元に気をつけながら船内を探索。
船内は甲板と船室2階層、それから機関フロアから成り立っており、右舷側には奇数番号、左舷には偶数番号の船室が並んでいる。
他の乗客にも会ったりしつつ(全部で10人もいないので空き部屋だらけだが)、4号室に入ってみたところ、なんと床に死体が!
「ワトソン、あれを見ろ!」
「だれか倒れていますよ」
「彼はどうしたんだろう。とにかく、助けてあげなさい」
「先生、これは大変です」
「え、どうした?」
英語の教科書の直訳レベルの日本語で語られる死体発見シーン。
「血、血が流れています!」
見てすぐ気づけよチャールズ。(観察力0)
「ほ、ほんとだ。この人は死んでいるぞ!」
アンタ探偵だろ。落ち着けチャールズ。(冷静さ0)
いきなり探偵としての低パラメータぶりを露呈するわれらが主人公。ひのきの棒だけで魔王退治に行かされる勇者の気分が久しぶりによみがえる。おまけにレベルアップしそうにないし。
ともかく死体の身元を知ることが先決だ。
死体を調べようとするがそんなコマンドはない。
そうだ、船長なら身元ぐらいわかるだろう。さっそく甲板に上がり船長室へ。ネルソンという船長に話しかけると、さまざまな選択肢が出る。
●メモをみせる
「なにもメモしてませんよ、せんせい」
●こくはつする
「証拠不充分で告発なんてできませんよ、せんせい」
すでに絶望的に息が合わないコンビプレイ。うっすらとワトソンに馬鹿にされてるように感じるのは気のせいだろうか?
会話ではラチがあかないので、船長に現場までついてきてもらうことにした。2人に増えたオプションを引き連れ、4号室へ。
部屋に入ったとたん勝手にウロウロしはじめるネルソン船長。
オイ、そこ、死体があるんだってば!
さっそく被害者のことを尋ねてみる。
「このかたをご存知ですか?」
「ああ、ブラウンさんですね」
意外にも冷静な反応。怪しく思いながら、彼の死の状況について話そうとすると……。
「な、なんですって。ブ、ブラウンが…。なんてことだ、彼はこのボートの共同経営者なのに…」
突然のあわてぶり。えーっと、もしかして君が踏んづけている人体は生きているとでも思っていたのかね?
馬鹿ばっかりだよもう。
衝 | 撃 | の | 解 | 決 | 編 |
主な登場人物 〜犯人は、この中にいる!〜 | |
---|---|
ブラウン | 被害者。ハンサムで金持ちな紳士。サザン一家というマフィアか何かの出身で、後ろ暗い過去があるという。ネルソン船長の共同経営者でもある。 |
ネルソン | デルタ・プリンセス号の全権を握る船長。誠実な正直者とも、厳しすぎて評判が良くないとも言われており、どうやら裏表のある性格らしい。…が、そのことは事件とは何の関係も無い。 |
カーター | 判事。たいへん地位の高い人物が関係する重大な秘密事項にもとづいて旅をしているらしい。…が、そのことは事件とは何の関係も無い。 |
ディジー | 若くて可愛い売春婦。ニューオリンズのパールおばさんのところにいく途中らしい。…が、そのことは事件とは何の関係も無い。 |
ヘレン | 上流階級の婦人。たくさんの洋服や宝石とともに旅をしている。夫を亡くした未亡人らしい。…が、そのことは事件とは何の関係も無い。 |
テーラー | 若くて色っぽい女性。銃の入った箱を持っている真犯人(あっ、書いちゃった)。しかし、最後には驚くべきドンデン返しが…。 |
ウイリアム | 「ボランティアで世の中を平和にしようとしています(本人談)」 そのわりにピストルを所持しており、毎朝甲板で鳥を撃つ習慣がある。とある施設に多額の寄付をしているらしいが、そのことは事件とは何の関係も無い。 |
ヘンリー | 殺されたブラウンの私生児で、船員として働いている。…が、そのことは事件とは何の関係も無い。 どうやらテーラーに想いを寄せているらしい。 |
被害者の身元はわかったので、いよいよ本格的に捜査開始。
捜査といっても道具も何もない船上ゆえ、地道に乗客全員から聞き込みをするだけ。
乗客たちに関しては右のカコミを参照してもらいたいが、彼らの設定はどうも無意味に濃くて困る。
『私生児』とか『売春婦』とかいった、子供向けのゲーム画面には死ぬほどそぐわない単語が、総ひらがなのメッセージで語られるのは相当ショッキングだ。
「ねぇお母さん、ばいしゅんふってナニ?」などとうっかり質問してしまい、子供心に気マズイ空気を体験した児童も少なからずいたに違いない。当時の規制って大らかだったんだねぇ。
ちなみにこれらの設定は結局、事件の真相には何一つ関わってこない。なら無理に入れるなよ。
あとはただひたすら乗客たちから話を聞いてメモを取り、それをまた他の人に見せるという作業の繰り返し。
なお、捜査の上で気をつけなければならないのは16号室。なぜなら、入るといきなりナイフが飛んでくるので。
「うぁー・・・」
「せんせい! せんせい、大丈夫ですか。なんということだ。せんせいが誰かの仕掛けに引っかかって死んでしまうとは…」
そんなもん、わかるか!
そして途中経過をすっ飛ばして、掟破りのエンディング公開。
どうせ大した推理はしてないし、もう時効だろうし。これからプレイしてみたいという少数派のあなたは、これ以降を読み飛ばしてください。
犯人を呼び出し、証拠を突きつけ、推理を披露するチャールズ。ゲーム中で唯一探偵らしい場面だ。
ブラウンに父の財産をだましとられた犯人は、ウイリアムが鳥を撃つ時間に合わせ、ブラウンを射殺したのだという。
犯人が罪を認めようとした瞬間、他の乗客が部屋に押し入ってくる。
「彼女は当然のことをしただけですよ」
えっ?
「私には、彼女の気持ちがよくわかるわ」
えええ? あんた、確かついさっきまで、いやしい生まれだからって彼女をバカにしてなかったか?
「彼女は、かわいそうすぎだよ」
「この事件をいちばんおそろしく感じたのは彼女でしョ。それをあんなふうに言うなんて…」
「そうだお前、勝手なことを言うな! ブラウンは彼女を脅していたんだぞ!」
……ええええええ?
俺が悪いの? と言うか、知ってたんなら言えよ!
「それしか方法がなかったのよ」
「私はこの船の船長として、彼女は無罪だと思います」
「つまり自己防衛だったのだ」
……なるほど、そうですか。
銃声に合わせて発砲して、そのあと証拠隠滅までしてるのに、錯乱状態の正当防衛ですか。
ええもう勝手にしてください。チャールズいなくても良かったんじゃん。
呆然としたままのチャールズはフラフラと自分の部屋……の隣の1号室に入り、自らの意志で一歩を踏み出しましたとさ。
「うぁー・・・」
(↑このラストはフィクションです)